マルチメディアCD入門(1995年11月発行):竹内 好 |
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2.図鑑,データベース〜検索を楽しむ工夫
情報があふれている現代,必要な情報を得るには最善の方法と手段を考えなければ反対に情報の海にのまれてしまう。時間的な効率も考える必要があるだろう。
先にも述へたように,CD-ROMはデータベースとしてもすぐれた機能を発揮する。本棚のスペースを我がもの顔で占領する百科事典もCD-ROM1枚か2枚にコンパクトに収納されてしまう。また,実際の検索作業においても単調なインデックスからの検索だけではなく,様々な角度から情報を手繰っていくことが可能になる。そしてそこには,探していたもの以上の付加価値をもった情報が待っているかもしれない。
つまり,CD-ROMによっていろいろな検索方法が実現可能となり,ユーザーは自分の目的にあった最適の手投と方法を選択することができる。そして検索という作業を楽しみながらすすめることが可能になるのだ。
(1)情報の切り口
「キネマ旬報」という映画雑誌がある。長い歴史を誇るこの雑誌から1960年代にハリウッドで活躍したある女優についての情報を探そうと思ったら,どれくらいの時間がかかるだろうか。もし,その女優の名前もはっきりと記憶していなかったら,検索はかなり難航してしまうだろう。
CD-ROMタイトル「キネマ旬報 シネマデータベース アメリカ編」(NECホームエレクトロニクス(株))はこの歴史のある雑誌のデータをもとに約10,000本のアメリカ映画の情報を完全に収録したもので,ユーザーは様々な角度から収録されているアメリカ映画についての情報をさぐり,知ることができる。例えば,自分が好きな映画のタイトルから検索すると,「スタッフ・キャスト」「解説」「略筋」「MAP」「スチール写真」「音楽」「映画賞受賞」といった情報を得る。タイトルだけではなく,スタッフの名前から作品を拝し出したり,「ジャンル」「映画賞」「製作年」「公開年」といったキーワードからもお目当ての映画作品を見つけることもできる。また,「フリーワード」検索では「職業」「宗教」「道具」「動物」などの用意されたキーワードからの検索も可能だ。
このほかにも検索に関して細やかな心づかいがなされている。例えば,欧米の名前をカタカナで表記した場合,「V」の発音を「ヴ」もしくは「ブ」とするのか迷うところだが,ここでは入力可能なデータのリストが表示され,そこから選ぶことができるので,あらためて入力をやりなおすといった手間が省かれる。また,ある情報を検索しながら他のデータ表示を呼び出すことも可能なので,書籍での検索のようにいちいちもとのページに戻ったりする必要もない。
つまり,このCD-ROMを媒介とした様々な情報のやりとりによって,ユーザーは収録されているアメリカ映画についての情報を楽しみながら縦横無尽に得ることが可能なのである。そして単に情報を探しているだけではなく,気がつくと映画の世界にどっぶりとつかっているかもしれない。
(2)メディアの再生
多くの映画についての情報だけではなく,1本の映画について様々な角度からの情報を提供している作品もある。「A
HARD DAY'S NIGHT」(米ボイジャー社)は,1964年に制作されたビートルズの同名主演映画とそのシナリオを完全に収録している。さらにエッセイ,メンバーとスタッフのプロフィール,曲目の解説,劇場予告編,宣伝用スチール写真,監督とのインタビューなど様々な情報を提供している。
このタイトルによって「A HARD DAY'S NIGHT」という映画をもっといろいろな角度から楽しむことが可能になった。例えば,映画の中からジョン・レノンやポール・マッカートニーが登場する場面だけを検索したり,映画を見ながら聞き取れなかったセリフをシナリオで確認することができる。そして「フォトギャラリー」に収録されているビートルズの懐かしい写真の数々を見ることも可能だ。
このように様々な資料やデータを加えることでこの1本のモノクロ映画は新しいマルチメディアソフトとして生まれ変わった。CD-ROMという1枚のお皿に収められた情報から自分の好きなやり方で,自分が知りたい情報を手に入れることができるのだ。単にひとつの情報だけではなくそこから広がる情報の網をたぐり寄せる検索の方法は,CD-ROMならではと言えるだろう。あるひとつの情報から別の情報へジャンプしたり,ひとつの情報を見ながら別の情報を呼び出し,比べることも可能だ。
そして,そこには紙のメディアでは得ることができない音と映像がある。現実には二度と再結成することのないビートルズがディスプレイ上によみがえるのだ。ユーザーは様々な情報を得ながら,これまで知らなかった魅力に触れることができるかもしれない。1枚のCD-ROMが知的好奇心をかきたて,新たな興味へと誘うだろう。
(3)マルチメディア動物園
動物園や博物館,美術館といった施設も膨大な情報を抱えるひとつのメディアと言えるだろう。大規模な施設では,探している情報にたどりつくだけでもたいへんな労力と時間を要することになる。
カリフォルニア州サンディエゴにあるサンディエゴ動物園も,そんな大規模な施設の一つだ。園内の動物をすべて見て回ろうと思ったら1日では足りないだろう。CD-ROMタイトル「THE
ANIMALS!」(マルチソフト(株))はサンディエゴ動物園の専門スタッフの協力を得て,この広大な動物園をディスプレイ上に再現した。
オープニングに現れる地図は,実際の動物園の案内板のように,この「マルチメディア動物園」について教えてくれる。この地図は熱帯雨林,サバンナ,ツンドラ,タイガ,砂漠,山,島などの動物の生息地によって区分されていて,そこから調べたい動物について検索することが可能だ。そして,情報の提供は文字や動物の写真だけではなく,映像(動画)や音声によっても行われる。
また,サンディエゴ動物園体験ツアーに参加したり,いろいろな動物についての物語を楽しんだりすることもできる。まさに実際に動物園にいるような,もしくはそれ以上の楽しみ方ができるのだ。
この作品においては,先にも述べたように動物の生息地から,もしくは「ライブラリー」において,動物の動画や写真,またはテキストのリストなどから,知りたい動物についての情報を検索することができる。また,文字,映像,音といった多重なメディアによって提供される情報は,紙の上のものよりもはるかに印象深く受け取られるだろうし,新たな興味もそそるだろう。図鑑として楽しみながら検索できるような工夫と心配りが随所に見られる作品である。そしてつくり手のこだわりは,この作品に収録された写真や動画のクオリティとしても現れている。これらすべての要素が,この作品を大人も子どもも楽しめるような「マルチメディア動物園」として成り立たせているのだ。
(4)新しい検索の方法
このように検索という作業もCD-ROMを使うと単調なものではなくなってしまう。そしてそこで提供される情報は,紙や映像,音といった単独のメディアからは得ることができないほど多様である。検索の手間と時間を省きながらも,得る情報の量は増えるのだ。情報の海にのまれることもない。
CD-ROMに収められた情報は,ユーザーとのやりとりによって一つのポイントを目指したり,多方面にその枝を伸ばしたりしながら多様に変化していく。一方的ではなくユーザーの要求に応じた双方向の情報の提供が,CD-ROMによって可能となった。つまり,検索という作業にインタラクティブ性をプラスし,多重なメディアで情報を提供することで,楽しみながら検索を行うことができるようになったのだ。
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