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マルチメディアタイトルの特性(その6)
マルチメディアCD入門(1995年11月発行):竹内 好
■マルチメディアタイトルの今後

 以上,大まかなジャンル別に昨今話題になったCD-ROMタイトルの構造について述べてきたが,このほかにもビデオCDやフォトCD,またゲーム機を対象にした作品など,それぞれが今後の可能性を豊かに秘めている。
 例えば,ビデオCDにおいては既にVersion2.0が開発され,高精細静止画というタテ,ヨコ倍密の静止画像を2,000枚収録することが可能である。今のところ音声だけ,動画または静止画だけを再生する,もしくは音声と動画,静止画のそれぞれを組み合わせて映画やスライドショーのような表現方法がとられていることが多い。Version2.0が開発されたことでその表現の幅も広がり,リリースされるタイトルの数も増えつつあるようだ。はやくもビデオCDならではといった内容の作品も出てきている。例えば,タウン情報などをより楽しく,わかりやすく提供する「インフォテインメント」(Information<情報>+Entertainment<娯楽>)といった分野も注目されつつあるようだ。
 また,フォトCDはその制作の手軽さが大きな利点の一つとしてとらえられている。街の写真屋さんにデータを持って行けば誰にでも簡単にマルチメディアCDがつくれてしまう。このような手軽さを考えると,例えば美術館や博物館などの実際の空間を使わない新しい展示の形態として,またビジネスシーンにおいてはマルチメディアプレゼンテーションツールとして利用することが考えられる。Virtualな(仮想の)ミュージアムや会社がマルチメディアタイトルによって可能になるのだ。

 1994年秋頃からメーカー数社による商戦が激しさを増しているPlay Station,SATURN,3DO等のTVゲーム機だが,テレビという既に一般家庭に深く入り込んでいる環境をモニターとする,このハードウェアは確実にその販売台数を伸ばしているようだ。ハードウェアの普及に伴って,そのリリースされるソフトもまたマルチメディアタイトルとして注目を集めている。もともとはゲーム機として娯楽性を強く打ち出した作品が多く見られたが,これからの方向性としてはエデュテインメントのジャンルなど,家庭へのハードウェア普及の勢いを活用して「ホームユース」向けタイトルのリリースが期待されている。マルチメディアの家庭への浸透,またコンピュータに触れる機会の少ない人にとってのマルチメディアへの入り口,マルチメディア文化の成熟へ向けてひとつの環境整備として,TVゲーム機も大きな力を発揮するだろう。

 このように,それぞれハードウェアの技術革新やその普及に伴ってリリースされる数,内容ともに充実しつつあるマルチメディアタイトルだが,その開発環境や流通経路の確立など解決されなければならない問題がまだ多くあるのも事実である。例えば,CD-ROMにおいては,いつまで経ってもプラットフォームの標準化が実現しないことがその一般的な普及を妨げてきた。しかし,その問題もハイブリッド版の開発など,少ない作業工程で大きな結果を生むような努力が続けられ解決への道が模索されている。
 また,マルチメディアタイトルの出始めの頃はその演出方法や作業工程の策定まで,すへてが手探りに近い状態で行われてきた。しかし,ようやくビジネスとして一定の商業ベースも確保できるようになり始め,「マルチメディア産業」という従来のメディア産業の業界・業種の璧を越えた一つの新しい業界として,その制作過程においていわゆる「業界フォーマット」の模索・追求も始まっている。これまでは技術革新とともに進化してきたマルチメディアだが,これからはそのより豊かな表現を深め,メディアとしてより広く普及していくために技術開発サイドに提言していくことも必要とされるだろう。

 確かにその普及率から言うと書籍やテレビ,ビデオといった従来のメディアとマルチメディアでは比べものにならないが,環境問題の視点からも未来に向けて紙にかわる新しいメディアの開発とその充実が求められていること事実だ。その新しいメディアの一つのかたちとしてマルチメディアタイトルは大きな可能性を秘めている。
 「インタラクティブ性」はマルチメディアと従来のメディアとの差別化はかる特徴の一つだ。これからは技術サイドや情報の送り手側からだけではない,ユーザーサイドからの提言といったインタラクティブな情報交換も表現としてのインタラクティブ性をより豊かにし,一つのメディア,また文化として,マルチメディアの成熟を促進していく強力なファクターとなることだろう。
(おわり)
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